dot.b 運営メンバーインタビュー

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医療データを適切に取り扱うことのできる人材の育成を目的として
令和元年に開始した KUEP-DHIの一環である「ビジネス特化型インテンシブコース(dot.b)」は
第四期に向けて新たなスタートを切りました。
日本のデータサイエンスを牽引するリーダーを育てるdot.bの魅力と可能性について
主要運営メンバーに話を聞きました。

MESSAGE

座学だけでは得られない体験を
dot.bで。

KUEP-DHIプロジェクトは、内閣府が作成した「次世代医療基盤法」に基づく教育構想です。日本の医療の発展と健康長寿時代の実現につながる新しい社会のしくみづくりを、医療データを利活用して積極的に主導できる人材の育成を目的としています。そのためには、

  1. データをどう正しく集め、貯めるか。
  2. 集積したデータをどう分析し、活用するか。
  3. データの扱いのルールをきちんと知っているか。

この3点の知識が求められます。dot.bは即戦力となる社会人向けのコースですので、3つのベーシックな知識を短期間に吸収していただきやすいプログラムを組んでいます。座学だけでは得られない濃密な体験を、dot.bで得ていただけたらと思います。

黒田 知宏

教 授黒田 知宏
京都大学医学部附属病院 医療情報企画部

社会健康医学にとっても
身近なデータサイエンス。

私の専門である社会健康医学は、京都大学で生まれた新しいパブリックヘルスの概念です。「多くの人が、いきいきと長生きできる社会をつくる」ことをめざして研究や実践をしていますが、健康長寿社会をおびやかす課題や問題は実に多くあります。病気もあれば災害もあり、生涯で考えると妊娠・出産・育児から、どう死ぬのかに至るまでテーマは広がります。そうした人の健康と命に関わる問題をどう扱い、どう対策を講じるかを考える領域ですので、おのずと多様で大量のデータを適切に扱う必要が生じます。dot.bでは医療データを正しく扱うことを学びますが、社会健康医学の知識は、dot.bで医療データを扱う方法や基本として大いに役立つでしょう。

中山 健夫

教 授中山 健夫
京都大学医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学

データサイエンスのサイクルを
体感して欲しい。

私は現在、京大生全員にデータサイエンスを教育するというところにおります。dot.bでは解析の部分を担当していますが、もともとは眼科医で病院の医療データを整備する部署や運営を管理する部署にもいた関係から、データサイエンスのサイクルの中でも、特に人との接点に関する部分の重要性も強く感じています。実際の社会からデータを取ってきて、集積し、貯まったデータを分析して、それを社会に還す、というのがそのサイクルですが、その最初の収集の際のいろいろな課題への対応や、最後の社会に還す時の誤解の少ない適切な伝え方にも大きな学びの要素があるのです。dot.bでは、病院を舞台にして、このサイクルをまんべんなく体感できるのが大きな魅力だと考えています。

田村 寛

教 授田村 寛
京都大学国際高等教育院附属データ科学
イノベーション教育研究センター

現場のリアルを知る機会として
活用を。

私は救急医であり、大学院では医療社会学を修め、また厚生労働省にいた経験もあったことから行政との接点も多くあります。そうした多様な経験に根ざして今は病院運営支援をしていますが、その立場を活かしてdot.bでも実際の病院で実地体験をしていだだく機会を多く設けています。それは、病院がいかに専門領域の集まりであるか、いかに多くの関係者による意思決定によって成り立っているかを知っていただくためです。医師、看護師、薬剤師、検査技師など多職種の集合体であり、職域によって想いも患者さんへの目線も異なります。データと向き合う際に、そうした現場のリアルを知ることが生み出される医療データを深く理解することにつながり、大きなプラスになることを感じていただけたらと思います。

加藤 源太

病院教授加藤 源太
京都大学医学部附属病院 病床運営管理部

視野を広げ、
データを見る目を養う場に。

私はバックグラウンドが理学療法士で、研究テーマも介護寄りなものですから、医療データの講義の際にも、ケアの観点をうまく伝えられるように心がけています。また、データや結果を見るときに、絡めては見誤る因果が意外にあります。そうした見る目を、dot.bで養って欲しいと思います。講義をマネジメントする一方で、スタート当初より事務局の業務も担当し、参加者の皆さんができるだけ気持ちよく参加できるように支援をしております。派遣元の企業様には、いつも大変お世話になっておりますことをこの場をかりてあらためて御礼申し上げます。

植嶋 大晃

特定講師植嶋 大晃
京都大学国際高等教育院附属データ科学
イノベーション教育研究センター

interview

どんな人材育成をめざしていますか?

黒田:企業の方には、将来この分野においてこの人が自社でデータサイエンスを引っぱっていく人だと思う方を預けていただきたいと思います。参加した方は、ここで学んだことを持ち帰って、まずは会社の中で事業や新しいアイデアを立ち上げるときの先導役を果たせるエバンジュリストになっていただきたい。毎年そうした卒業生が増えていくことで、その会社を核として日本全体のデータサイエンスを引っぱっていく。そんなリーダーを育成するのが我々の目標です。

中山:データだけをみるようなデータサイエンティストを私たちはめざしていません。データは、あれば答えがでるものではないんですね。まず、どのようにしてデータが生じてくるかを正しくとらえて、いろんな知識を使って適切に分析・活用して、そして現場に戻す。つまり対策や評価につないでこそデータを読み解く意義があります。dot.bを通じて、それをきちんと意識できるデータサイエンティストになっていただきたいと思っています。

田村:データサイエンスというと、どうしても理工系の分析する部分にフォーカスが当たりますが、データをどう正しく集めるか、社会に戻すときにどう説明し、どんな手続きをするのかなどの法律やルールの話もすごく大切です。上述したデータサイエンスのサイクル全般を理解して、データを正しく扱える成熟したデータサイエンティストの育成のお手伝いができればと考えています。

加藤:現場の事情が複雑に絡んだ中で発生するデータには、どうしてもデータの揺らぎ、データの”綾”が出てきます。それは社会のどんなデータ生成の場面でも生じることだと思いますが、とりわけ医療データは、生死に関わる重要な情報を含んでいながら、”綾”がひときわ混み入っているところがあります。机上ではわからない、そうした現場の論理に基づいたデータの”綾”を知ることで、データに惑わされず、データを自分のものとして利活用できる人材になっていただきたいですね。

植嶋:データを分析して得られた結果をみて、思いを巡らせられる人になって欲しいというのがあります。データは、一つひとつは単なる数字にしか過ぎないようにみえますが、その向こうには患者さんの気持ちや家族の方の思いが隠れています。いわばエピソードの集合体のようなものなので、医療データと向き合う際には大切なものを扱ってることを意識できる人になって欲しいです。

dot.bのユニークさ、素晴らしさ

黒田:現実は、教科書で勉強できることだけではありません。むしろ知識は、そのままでは意外と使えないことも多い。dot.bの良さの一つは、現場に出て、知識にちゃんと糸をかけていく点にあります。だから体験として身につく。体験は、OJTとしてやると時間がかかりますし、大変です。dot.bでは擬似体験の形でコンパクトにまとまっているので、半年間みっちりとご参加いただくことで、医療を知っているという自信を持ち帰っていただけると思います。

中山:dot.bの座組みが、企業と京大の共同研究というところがすごく大事だと思っています。組織対組織なので、お互いに良い影響を及ぼしあえているのではと感じます。運営メンバーも、所属する部局がほとんどみんな違う。これだけいろんな組織が連携して実施する体制はなかなかないので、ここから今後生まれてくるものが楽しみです。

田村:多くのデータサイエンスの講座は、一通りの座学と演習で学びが終わるものが多いと思いますが、dot.bは、いわゆるビジネススクールのグループディスカッションやグループワークの手法を取り入れています。それによって、データを介してコミニュケーションを積極的にとる経験を積むことができるのはユニークなところだと思います。

加藤:dot.bも3年が過ぎ、これまで大切な人材を預けていただいた企業の方からも、うれしい評価を頂戴することが多いです。「dot.bから帰ってきて、発言の幅が広がった」「この分野の議論を率先してリードしてくれるようになった」と言っていただくこともあり、コンテンツを組み立てている立場として、本当に有難い限りです。あと、どうしても大学病院というとハードルが高く思われるかもしれませんが、dot.bの交流を通じて医療業界全般に親近感を抱いていただけるようになったもプラスの効果かと思います。

植嶋:中山先生がおっしゃった通り、dot.bは企業と京大の共同研究の座組みなので、我々の方でも企業の方と面談などを通じてすごく近しくさせていただけるのはありがたいことだと感じています。いろんなことを率直にお話しさせていただけますし、前向きな展開にも繋がっていくのはこのしくみのおかげだと思います。

dot.bに広がる可能性

黒田:同じ机を並べた参加者さんたちは、我々が思ってる以上に友達関係になっていて、いろんなところで繋がっていることは大きな果実だと思っています。そういう人たちが、これから世の中である程度の中核になっていかれることによって、データに騙されないような社会が出来あがると思いますし、それを今、医療系の方々と IT系の方々だけで取り組んでいますが、もっと他の業界の人もたくさん来てくだされば、いろんな革新が広がっていくと感じます。

中山:黒田先生もおっしゃる通り、同期の方々はすごく強い仲間意識があります。ですので、コロナがおさまれば、いつか同窓会を開きたいですね。できれば他の期の人たちも混ざると、さらにコミュニケーションの輪が広がってdot.bらしい面白いシナジーを生んでいくのではないでしょうか。

田村:dot.bには、理工系で分析が得意だという方もいれば、分析などほぼやってこなかったという方も参加されます。その方たちがミックスしているのがdot.bの素晴らしさです。お互いが得手不得手を理解し、協力して課題を解決する。データサイエンスって、もう一人きりでやれる領域ではなくなってきています。いかにネットワークを使って課題解決の動きに繋げるかが重要になっているなか、dot.bはその経験を先んじて擬似体験できる良い機会になっていると思います。

加藤:参加されている企業の方も、ここで得た知識を使って企業活動にぜひ活かしていただきたいですね。具体的には研究なり、開発なりにデータを使っていくことに、前向きにチャレンジしていただきたいです。私たちも可能な限り見守って、サポートしていけたらと考えています。そういうふうにして、医療データの利活用推進に貢献できる産学連携のプラットフォームとしてdot.bが発展していけばうれしいです。

植嶋:3年間やってきているので、少しずつですが、企業の方から新規プロジェクトをご提案をいただいたり、講義の担当教員に社内セミナーを依頼していただいたりとコミュニケーションがいっぱい出てきています。そんな中から、dot.b発のコラボみたいなものが誕生すれば、いろんなところにとって良いなぁと期待しています。